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INITIATIVE「自分のキャリアは自分で創る」WEBマガジン

ライフ 2016.06.29 「地方移住・UIターンを考える」速水健朗×常見陽平 特別対談 <後編>

文:INITIATIVE(イニシアチブ)編集部



『いしかわ移住UIターン相談センター』の開所を記念して4月23日に開催したトークイベント『いま、地方に住む、働くということ』。今回は【前編】に引き続き、石川県出身のライター 速水健朗氏と、千葉商科大学 国際教養学部 専任講師で「いしかわUIターン応援団長」でもある常見陽平氏の対談の模様をお届けします。

【前編はコチラ】

距離の近さが生み出す価値


速水:
3年前、アメリカのヤフーが在宅勤務を禁止して、大きな議論を呼びました。時代に逆行しているんじゃないかっていうのがネットでの議論の主な方向だったんですけど、チームラボ代表の猪子寿之さんが「うちも在宅勤務は禁止」だ。むしろ、その方が先進的なIT企業が向かっている現実だという反論でした。スタッフ同士のフェイス・トゥ・フェイスのコミュニケーションからビジネスのアイデアは生まれるんだ。そのためには、むしろ密接な距離感が大事という理由です。

米IT企業における従来のオフィス/働き方のトレンドは、元々はシリコンバレーの環境の良い広いオフィスで働いて成果を出そうということでした。しかし、最近の傾向は、シリコンバレーではなく家賃の高い都心の狭いオフィスに移行しつつある。例えば、Googleという会社は、すごく会議でのルールを重視する会社ですけど、会議室にはすごく小さなテーブルしかないんです。これもフェイス・トゥ・フェイスの距離を実現するための、装置としての小さなテーブルということです。

人と人の距離の近さが価値を生み出す時代に、都市集積が起こるのは当然の原理。そうした状況をふまえて移住を考えるなら、より集積を高めることを踏まえた移住を考えるのが正解です。住む場所としての魅力が先で、そこに集積が起これば、それ以外の雇用も生まれていくのだと思います。

常見:昨今、多くのIT企業では職場の近くに住むと家賃補助を支給する人事制度を導入しています。三軒茶屋や池尻大橋などは、サイバーエージェントの社員が本当に多い(笑)。ITバブルの頃から言われていましたが、今になってようやく、渋谷がビットバレーになってきたといえます。

速水:近くに住むことで、みんな通勤しなくなってきています。その企業の周りに関係者のコミュニティが発展して、飲食店が栄えて。かつては企業集積だったのが、最近では働く人の住む場所も含めた集積になってきています。

金沢の街の魅力は、兼六園や21世紀美術館など、歩いていける範囲で観光資源が集まっている点です。そして、そこに実は飲食店も集まっている。金沢の面白いエリアって、東京でいう新宿ゴールデン街のような横丁が残っているエリアです。ただ、その集積がいわゆる観光客レベルで、生活者は依然として郊外に住んで都心部に通勤しています。

北陸は郊外ロードサイド文化が進んでいる地域です。1世帯あたりの車所有が3台を越えている車文化で、持ち家志向も強い。そうした拡散指向のまちづくりが続いてきて、価値観もそれに染まってしまっている中で、集積を行うというのは難しそうですが、金沢もライフスタイルの中央回帰が次の街の魅力づくりのために必要だと思います。それが移住のきっかけづくりにもなるのではないでしょうか。


移住者の受け入れに向けて


常見:先ほども申し上げたとおり、移住促進のためには物語=ストーリーが大切だと感じます。移住やUIターンの押し付けになってはいけないので、どうしたらハッピーに移住できるのかというストーリーがいります。

優良企業は石川県にはあるんです。一方で、「その企業があるから移住したい」となるとコマツ(小松製作所)レベルの会社です。それ以外のケースだと、いわゆる“生活トリガー”ですよね。家族の介護とか、結婚とか、子育てのためには東京で働くより地元のほうが良いと考えたりとか。
そのときのベストシナリオって何なんだろう、ということを考えなくてはなりません。移住・転職に到るまでのストーリーが必要です。

採用に課題を抱える地方企業はとても多いです。特に、北陸企業は真面目すぎます!企業の魅力のアピールが控えめなんですよ(笑)。
よくよく聞くと、特定の分野で世界に通用する技術を持っているなどの凄い企業が多いのですが、企業としてそれを求職者にアピールしていいのか分からないそうです。

また、採用後にも課題があります。せっかく入社してくれた移住者に、どのような仕事を期待するかを明確にするのと、社内に馴染むための支援をすることが必要です。

「石川にはいい会社がある。移住しよう!」とアピールするだけでは上手くいきません。移住した人材をこう活用しましょう、企業側はこんな心構えが必要だよと、求職者だけでなく企業に対しても発信していかないといけません。

速水:新しい人の受け入れには、その地域のコミュニティの特徴、土地柄が出ますね。
少し悪口になりますが(笑)、地方でのよそ者の受け入れ方、特に地方都市での僕みたいな職業の人に対する扱いの酷さといったらないですよ(笑)。

地元の放送局にゲストで呼ばれたときのことですけど、挨拶に来た局の偉い人の態度が、もう一人のゲストの国立大の大学教授とでは偉い違いだったりする。地方ではときどき、そういう職業差別を感じるときがありますね。所属のないフリーのライターみたいな存在が、一番理解されない。

成功のカギは、移住者コミュニティ


常見:移住者を受け入れようとしたら、地域全体の意識が変わるのは時間がかかりますが、少なくとも会社や周りの人はそうしたことがないように考えないといけないですよね。

私も転勤で愛知に住んだことがあるのですが、周りの赴任者には出身地を明かさない人が多かったですね。少し排他感があり、なかなか地元に入っていけなかったです。
そうした意味で、移住者コミュニティがあったらいいなと思っています。

速水:移住の成功例は、移住者コミュニティがある場所ですよ。典型は鎌倉!

常見:あー、なるほど。

速水: 90代にメディア、広告業界の人たちが中心になった鎌倉移住ブームがありました。都心よりも密接で近接性のある暮らしが鎌倉みたいな場所では存在していたりします。

また、地方移住の有名な例では島根県の海士町ですけど、あそこの成功の秘訣も、元々移住に成功した人たちがいて、コミュニティーができているという部分です。ちなみに、住民の2割が移住者だそうで、よそ者に対する排除の原理が働かない。だからIターンが可能なんです。

逆に、就農の場合は移住者コミュニティがないから失敗する率が高いんです。農業は、土地に根付いた暮らしと結びついているので、新規移住者を受け入れる土壌がない。そのコミュニティにいきなりよそ者が入っていくのは、かなり困難です。

常見:郷土料理のお店がコミュニティになっている例もありますよね。沖縄料理店とか。銀座に美唄焼き鳥の専門店があって、北海道民のコミュニティになっているんです。今度、一緒に行きましょうよ。

速水:移住じゃなくて東京でいいじゃん(笑)。



いいとこ取り生活を考える


速水:先ほどの話をひっくり返して言いますが、「『Pen』の特集型人材」である、僕らのようなフリーランスで、どこでも仕事ができる人たちを、なぜ移住させないのかとも思いますね。

常見:イケダハヤトさんの高知移住は話題にはなりましたからね。

速水:僕はいま東京に住んでいますが、どこか魅力的な地方の街に僕自身が誘致されたら、ほいほい移住する気持ちもあるんです(笑)。ネットがあれば、仕事は何とでもなります。そういう感じで、事実上移住可能な人自体は増えているはずです。でも、いきなり移住する人はいませんよね。複数拠点で生活して、気に入ったところに移住するとかならあるかもしれません。

完全移住は無理でも、同業者の間では、二拠点生活は少しずつ浸透しつつあります。僕も千葉の外房に仕事場を借りています。東京の知人関係のコミュニティから離れるわけにはいきませんが、一方で外房では誘惑のない環境で静かに仕事に集中する。

常見:いいとこ取りですね。
旧友が北海道で会社を経営しているのですが、札幌に生活拠点を持ちつつ、会社の顧客が多い東京にも拠点を持っています。複数の都市を行ったり来たりの「いいとこ取り生活」はありだなと思いますね。

速水:その点で、金沢はありだな思っています。新幹線で2時間半というのもありますけど、それ以上に地元で魅力的な活動をしている比較的若い人たちのコミュニティがしっかりしていて、いい飲食店の経営者たちもちゃんとつながっています。金沢なら、移住してもいいかなと思ってます。

常見:石川県への移住を考える上で安心するのは、優れた地場企業が数多くある点ですね。そして、石川の人はみんな真面目です。新幹線ができたことに対しても、凄く冷静に捉えていて、ある知人は「来る人が増えた分、がっかりする人が増えていないか」などと真面目に考えたりしています。

新幹線が通って、街は変わっていくと思いますが、一時的に注目されるだけの成功事例なんて作りたくないですからね。移住した人の物語を発信して、普通の人たちのハッピーモデルを作りたいと思います。

すぐに成果は出ないでしょう。すぐに出る成果なんて、私は嘘だと思っていますし。応援団長として、長い期間かけて、石川県への移住・UIターンを盛り上げていきます!
本日はありがとうございました。




登壇者紹介


速水健朗(はやみずけんろう)氏

ライター、編集者。
1973年、石川県生まれ。コンピュータ誌の編集を経て現在フリーランスとして活動中。専門分野は、メディア論、都市論、ショッピングモール研究、団地研究など。TOKYO FM「クロノス・フライデー」パーソナリティー。著書に『東京どこ住む?』『東京β』(筑摩書房)『都市と消費とディズニーの夢 ショッピングモーライゼーションの時代』『フード左翼とフード右翼 食で分断される日本人』(朝日新書)など。

常見陽平(つねみようへい)氏

千葉商科大学国際教養学部専任講師(専門:雇用・労働、キャリア、若者論)
いしかわUIターン応援団長
1974年北海道生まれ。大学卒業後、リクルート(現リクルートホールディングス)に入社『とらばーゆ』編集部などを歴任。株式会社バンダイに転職。新卒採用を担当。その後、コンサルティング会社を経てフリー。中小企業の採用に関するコンサルを行う。2015 年より千葉商科大学国際教養学部専任講師。平成27年度 石川県内中小企業のための採用力強化セミナー「いしかわ採強(さいきょう)道場」にて講師を務め、2016年4月より「いしかわUIターン応援団長」に就任。著書に「なぜ、あの中小企業ばかりに優秀な人材が集まるのか?」(日刊工業新聞社)、「『就活』と日本社会―平等幻想を超えて」 (NHKブックス)、「就活格差」(中経出版)など多数。

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