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INITIATIVE「自分のキャリアは自分で創る」WEBマガジン

ひと 2016.07.29 南部靖之×竹中平蔵 特別対談「これからの日本の雇用と働き方」<後編>

文:INITIATIVE(イニシアチブ)編集部

創業以来、「社会の問題点を解決する」という不変の企業理念のもと、さまざまな雇用の課題と向き合いながら「人を活かす」仕事に取り組んできたパソナグループ。今回は【前編】に引き続き、パソナグループ代表取締役グループ代表の南部靖之と取締役会長の竹中平蔵が、〝誰もがイキイキと働ける社会の実現〟というグループの原点と、今後のビジョンを語ります。

【前編はこちら】


パソナグループ 代表取締役グループ代表 南部靖之

「企業依存社会」から「個人自立社会」へのシフト


南部
 私が40年前に人材派遣システムを提唱し起業したのは、「雇用における格差をなくしたい」という思いからです。人の生き方がそれぞれであるなら、働き方も多様であってしかるべきなのに、日本には雇用形態による格差がいまだに厳然と存在しています。
これを、雇用形態にかかわらず個人が活躍できる社会環境へと変えていかなければなりません。正社員と非正社員など働き方で格差があってはならないし、10万人の職場でも10人の職場でも、同じ福利厚生やセーフティーネットがなければならない。その上で、企業と働く人がイコールで結ばれる「個人自立社会」を実現することが必要です。

そして、その基本は「同一労働、同一賃金」。「一億総活躍社会」の中で、安倍首相が自らこの「同一労働、同一賃金」というメッセージを出したことは、素晴らしいと思います。私たちも創業時、雇用形態による処遇格差をなくすため、エキスパートスタッフの1時間あたりの給与は正社員と同じに、つまり大企業の女性社員の平均年収を1年間の労働時間で割って算出しました。その結果、パート・アルバイトの2倍以上になりました。

竹中 かつて日本経済の主流であった終身雇用制による「一企業に所属する=一生安泰」という時代は役割を終え、「企業依存社会」から「個人自立社会」への転換が求められています。それは、個々がスキルを高めて自立し、自ら人生を切り拓いていくために、企業や人がサポートする社会です。

同時に、働き方の内容も、求められるスキルも日々変化しています。オックスフォード大学のマイケル・オズボーンが数年前に発表した論文では、今後10〜20年の間に、今ある職業の47%はなくなると予測しています。
わかりやすい例でいえば、ビデオ判定で野球の審判がなくなるかもしれないし、人工知能で銀行の融資業務の担当もいなくなるかもしれない。

これまでのパソナの歴史でも同様の事例はありましたね。例えば、タイピストはいなくなりました。

南部 タイピストという職業はかつて花形でしたし、特殊技能として高く評価されていました。しかし、ワープロソフトが普及して誰でも扱えるようになり、あっと言う間になくなった。仕事そのものがなくなるということは、その仕事をしていた人にとってこれまで培った経験やスキルが使えなくなる可能性があるということです。

パソナグループはこれからも、人材会社の責任として、働く人が新たなスキルを獲得するための支援を続けていかなければと思います。


パソナグループ 取締役会長 竹中平蔵

パソナグループが実現したこと、これから実現していくこと


竹中 結局は、代表がずっと言い続けている「すべての基本はエキスパートスタッフである」ということ、それがすなわち「社会の問題点を解決する」というパソナグループにとって普遍の理念に、すべてつながっているんですよね。一言で言えば「バック・トゥ・ベーシック」。これがすべての企業活動の基本ではないでしょうか。

南部 バック・トゥ・ベーシック、なるほどそうかもしれませんね。

竹中 まず、男性と女性は平等であるという基本。そして、多様な価値観を持つ人が混ざり合って社会を構成しているという基本。パソナは基本に忠実にやってきた結果として、先行してダイバーシティに取り組み、今の事業を創り上げてきました。
そして、これから変化の時代を迎えるにあたり、基本に加えて、新しい事象に対する柔軟な適応力をどのように確保していくかが、日本社会全体にとっても、パソナグループにとっても重要なのです。

南部 私たちはこれまで、いかなるときにも社会の変化や課題を敏感に察知し、解決するために、さまざまな取り組みを展開してきました。

例えばリーマンショックが起こったとき、新卒学生の就職環境が一気に悪化しました。当時はパソナグループも大変苦しい状況でしたが、就職できなかった若者に、就業ブランクを空けることなく働きながら学べる機会を提供しようと「フレッシュキャリア社員制度」を作りました。3年間で約7800人がパソナに入社し、ビジネススキルの基本を身につけ、就職することができたのです。

竹中 あのときは、55万人の新卒に対して17〜18万人の雇用が足りないという状況でしたから、まさに社会の問題点の解決に貢献したよい事例ですね。その後もパソナグループは毎年のように新しいチャレンジを続けています。

南部 今、私たちが力を入れているのは、「地方創生」です。しかも〝企業誘致〞ではなく、〝人材誘致〞による地方創生を目指しています。
もともとパソナグループでは、農業分野での雇用創造を目指して、2003年から全国で新規就農者や農業経営者の育成を行っていました。2008年からは、兵庫県淡路島で本格的に地方創生と結びつけた取り組みを開始し、2012年には廃校となった小学校を「のじまスコーラ」として再生しました。2015年4月からは京都府京丹後市で西日本最大級の道の駅「丹後王国『食のみやこ』」をオープンするなど、新しい産業を興す人材を誘致し、地域の持続的な発展に向けた取り組みを進めています。

さらに、今年から岡山県久米南町で新たな取り組みを始めました。この町は高齢化率が県内1位で、人口減少が課題となっています。地域資源を活かして産業を活性化させたり、暮らしやすい生活環境を整備して「選ばれる町づくり」を進めていかなければならない。そこでまず、パソナ岡山が「道の駅くめなん」の運営・リニューアルに着手しました。ここを地域の情報発信・コミュニティ拠点として整備し、雇用を生み出していこうという考えです。

私たちが「地方」と呼んでいる淡路島や岡山も、北海道や九州も、世界から見れば、小さな日本の中でみんな東京と同じに見えますよ(笑)。だから久米南町で成功すれば、全国どこでも成功できると信じています。

竹中 過疎化、少子高齢化など日本の社会課題の解決のよいヒントになりそうな取り組みですね。これからリニア中央新幹線が開通して大阪まで伸びれば、東京~名古屋~大阪が約60分で結ばれます。新宿から横浜へ行くのと同じくらいの感覚です。イノベーションの源泉といわれる「メガリージョン(大都市圏)」として既に世界最大の東京圏が、リニア開通後は名古屋・大阪とともに人口7600万人を擁する世界に類を見ない「超・メガリージョン」を形成します。
人と人とのつながりがイノベーションを生み出すとすれば、これほどのチャンスはないと言えるでしょう。地方創生という点でもメリットは計り知れません。

南部
 リニアは心強いですね。私は大都市から地方に人材を流動させて、地方創生に取り組もうと考えてきました。これは、ストレスがない働き方をつくり、心身ともに健康で、みんなが人生を楽しむという意味でも重要です。つまり地方には、今の日本社会が抱えている問題の多くの解決策があるのです



「人は国家なり」すべては人から始まる


南部 会社も国も、すべては人材から始まる―、つまり「人は国家なり」です。当たり前のようですが、一番大切なものは「人」だと、心から思っています。
これを人事的な観点から言うなら、最も大切にすべきなのは「思いやりの人事」ではないでしょうか。思いやりというのは、部下や上司といった立場にかかわらず、常に真心を持ってお互いに接することであり、それは、仕組みやルールづくりよりも、大切なものなのです。

竹中
 私が政界に入り大臣になってすぐ、代表が額に入れた書を持ってきてくださいましたが、そこに記されていたのが「人は国家なり」でしたよね。代表からいただいたこの言葉を、私はずっと大事にしてきました。

梅原猛の名著に『将たる所以』という一冊があります。今風に言うなら「リーダーの資格」でしょうか。そこで書かれているのが、リーダーはまず、自分で将来を見通す力があると。その次に、自分の考えをきちんと語って説得する能力があり、最後に組織を動かせなければいけないとあります。「自分でビジョンを持て、自分でそれを説明しろ」というのは、学者出身の私でもできる。ところが三つ目の「組織を動かせ」というのは、私にはできないことなのです。これができるのが本当の経営者にほかなりません。

組織を構成する一人ひとりは、それぞれ事情を抱えています。今年は自分の子どもが受験だとか、家族の体調が悪いとか。みんながそれぞれの状況や思いで生きているということを理解して、環境を整え、人を動かす。これがまさに「思いやり」ですよね。

南部
 会長は学者であると同時に、経営という面でも十分リーダーとしての資質を発揮されていると思いますが(笑)、今の3つの条件に加えて、私が考える本物のリーダーの条件を挙げるなら、「大きな夢を持つ力」と、それを人に「〝希望〞という言葉で伝える力」だと思います。
組織を動かすということは、夢を語り、目標を明確化し、人を動かすということ。夢を語るリーダーと「思いやりの人事」こそが、その企業の未来を創っていくのではないでしょうか。

(2016年7月発行「HR VISION vol.15」より)

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