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INITIATIVE「自分のキャリアは自分で創る」WEBマガジン

ひと 2017.01.23 ピアノ講師から創業280年の老舗乾物屋へ。女性社長の“変化し続ける経営”とは【女性起業家を支援する LBA】

文:INITIATIVE編集部

現在、日本の女性経営者は33万人(「2015年全国女性社長、東京商工リサーチ」)に達し、その数はこの5年間で約1.6倍に増加しました。パソナグループでは、女性の多様な働き方の一つとして「起業」によるキャリア形成を応援するため、2014年から女性起業家支援トータルプログラム「Ladies Be Ambitious(LBA)」を開講しています。今回はLBAで学び、現在女性経営者として活躍する西山麻実子社長から、女性ならではの感性を活かした企業経営について伺いしました!


◆株式会社八木長本店 代表取締役 西山麻実子氏
音楽大学卒業後、ピアノ教師として活躍。実家は創業280年の鰹節・乾物の老舗 八木長本店。実父の八代目主人 八木長兵衛氏に請われピアノ教師を辞めて入社。2014年に九代目主人に就任。伝統を守りつつ、海外進出や新商品開発など、日本料理の基礎となる各種だしをはじめ、豆、煮干し、うどん、茶そば等それぞれ最上の品物を厳選し販売している。
八木長本店:http://www.yagicho-honten.jp
 

乾物のグローバル展開。100年後も見据えた経営者としての責任

乾物の出来は天候の影響を大きく受けます。そのため、味を保ちながら、金額も一定に保つことは一筋縄ではいきません。毎日入荷する鰹節は、職人に出汁を取ってもらい試飲しています。色や形、重さ等で鰹節ごとの特徴があるのですが、やはり削って出汁をとってみないと実際の味はわかりません。卸し先の料理屋によって求められる鰹節の風味や色は違うため、最も理想的なものを提供できるようにしています。

しかし今の時代、鰹節を削って出汁を取るところから調理をする料亭や一般家庭は少なくなっています。消費者の減少と比例して、素材そのものだけを販売する私たちのような業者も少なくなりました。このままでは100年先まで残ることができないと感じ、日本製の上質な乾物食材の生産者保護と販路開拓のため、現在和食文化のグローバル化に努めています。

具体的には、日本の経済産業省のクールジャパン事業に販路開拓の為参加し、和食に無くてはならない日本の伝統食材に関する講演を行っています。また、アメリカ、ヨーロッパ、アジアの各地で、和食の基本を生かしたワークショップも行っています。

あるとき香港で、毎日かんなで鰹節を削り、味噌を使ってお味噌汁を作る女性に出会いました。お米も日本産を購入しているそうです。彼女たちにとって、日本食は「ヘルシーでおいしい、おしゃれでカッコいい」存在として受け入れられています。一方日本では、日本食は地味で手間がかかり、味付けも難しいと捉えられることが多くあります。香港のように、海外の方々が日本食の魅力に気づいてくださっているこの流れを、日本にも逆輸入したいと思っています。



ピアノ講師から、創業280年の老舗乾物屋に。営業を通じて学んだ「現場主義」

音楽大学を卒業してから10年ほどピアノ講師などを務めていました。あるとき、父である八代目主人から「そろそろ帰ってこないか」と話がありました。長女である私は、いつかは家業を継ぐと覚悟はしていたので、音楽をきっぱり辞め、乾物屋の仕事を始めました。

八木長本店に入社した当時は、営業として仕入から販売までを担当していました。当時は、「高級スーパー」への進出を決めた転換期で、売り場作り・陳列の仕方・マーケティング等すべてを手探りで行う日々でした。前日の夜中から泊り込みで商品を並べ、自ら販売現場にも立ち「今一番何が売れているのか」を学びました。当時は、女性が中心となり営業現場を仕切るのは珍しく苦労も多かったですが、手を差し伸べてくださる方もたくさんいました。
この時に学んだ、お客様の反応を実際に見て販売に生かす「現場主義」は、経営者になった今でも大切にしています。



女性経営者ならではの感性を活かした、新商品開発・本店改装への想い

消費者のニーズが減る中で、なんとか売り上げを維持することばかりに注力し、これまでなかなか新しいことにチャレンジできずにいました。しかし、創業から280年がたちますが、100年、200年後を見据え事業の第2の柱を作っていかなければなりません。そこで、何か新商品を開発しよう、と思い開発したのが「かつおせんべい」と「椀だし」です。

自分自身も料理をするなかで、「こういうものがあったらいいな」という女性目線のアイディアを商品化することができました。おかげさまで八木長の人気商品となったこの2つは、先日開催されたミラノ万博に出品させていただきました。

また、現在日本橋本店を改装しており、今までと違うまったく新しい形にしようと計画中です。先代の当主たちは、歴史を重んじ常連のお客様を何より大切にしてきたので、「変わらない」ことを第一にしてきました。もちろん、これまで八木長に通ってくださってきたお客様には、改装後も変わらず関係を大切にしていきたいと思っています。

しかし、これまでのように商品だけを販売していては、近いうちに乾物を扱える人はいなくなってしまうでしょう。新しい店舗では、美味しい食べ方を伝えるワークショップを開催したり、実際召し上がって頂けるような工夫をし、女性経営者としての目線で八木長を守っていきたいと思っています。



パソナグループの「Ladies Be Ambitious(LBA)」に参加したのは、まさに本店改装の構想に悩んでいたのがきっかけでした。新しいことにチャレンジするか、これまでの形態を守っていくべきか、自分の考えに自信が持てなくなってしまったのです。

LBAに参加し、日々の業務に追われるなかでも、事業計画書を作ったり、講演会で話を聞いたり、自分の事業に関して深く考える時間を設けることで、自分の考えをまとめることができました。そして、「本店改装を実現しよう!」と決断することができました。同期の参加者からも新聞やネットでは見つけられないアイディアをもらうことができ、20~30代の女性から聞くリアルなユーザー目線の意見は、大変参考になりました。

「食」に関しての可能性は、まだまだたくさんあると考えています。2020年の東京オリンピック開催に向け、新たな仕事もたくさん生まれていくことでしょう。そこに女性がチャレンジしていくチャンスもあると思います。
誰もがほっとする味と香り。私は、乾物という日本伝統の食材のすばらしさを改めて日本の方々に再確認していただくとともに、海外の方々にも魅力を発信し本物を味わっていただきたいと考えています。

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