「人材」は企業の成長を支える重要な経営資源です。社員がイキイキと活躍できるよう、健康管理の枠組みを超え、戦略的かつ積極的な健康増進に取り組み、健康を重視する企業文化を育む企業が今、増えつつあります。本連載では、「健康経営」を実践しヘルシーカンパニーを目指すための施策を考えます。
第4回となる今回は
【前編】に引き続き、既に健康経営に取り組み、成果を上げている会社に、取り組みにあたっての考え方や体制、活動の実際についてお話を伺いました。
「可視化」によって成果を生む健康づくり ー 株式会社タニタ
「はかる」から始まる健康づくりを社内外へ
創業時はトースターやライターなどを製造・販売していた株式会社タニタは、1959年にヘルスメーターの製造・販売を始めたことで、健康機器専業メーカーとして歩み始めました。
現在『我々は、「はかる」を通して世界の人々の健康づくりに貢献します』という経営理念を掲げ、健康計測機器はもちろん、保健指導サービス事業などのソフトビジネスも展開しています。
このように健康を事業の主軸に据える同社の社員が、不健康やメタボというのは説得力に欠けることから、2008年に社長が健康増進の取り組みを指示、2009年1月より国内全社員を対象とした「タニタの健康プログラム」をスタートさせました。
この取り組みでは、ビジネスで培ったハード・ソフトを積極的に活用しています。歩数計を全社員に配布するほか、週1回は体組成計・血圧計による健康チェックを義務づけ、からだの状態を「見える化」しています。
計測データは、日々の振り返りのほか、健康指導にも活用されます。また、社員食堂での健康食の提供、近隣スポーツクラブでの運動指導なども行っています。このように「はかる」「わかる」「気づく」「変わる」のPDCAサイクルを継続的に回すことで、楽しみながら健康増進を目指せるようになっています。
「タニタの健康プログラム」は現在、様々な自治体・企業でも導入が進んでおり、社会全体での健康づくりにも役立っています。
PDCAサイクルで高い成果を実現
「健康プログラム」導入前の2008年と導入後の2010年を比較すると、医療費は約9%の削減効果が見られました。また、肥満度を表す体格指数であるBMIが標準値(18.5〜25)の社員の率は、2008年70%から2012年75%と向上しています。
こうした成果が評価され、2013年には「第2回 健康寿命をのばそう!アワード」で厚生労働大臣最優秀賞を受賞、2012と2014年には厚生労働白書に取り組み事例が掲載されています。
様々な活動を蓄積してきた同社は、2014年に「健康宣言」を発表、生活習慣病、睡眠・休養、禁煙への取り組みを強化していくことを明示しました。これからも社会に新しい健康価値を創造し貢献するために、社員一人ひとりの心身の健康づくりを進めていく考えです。
▲社内設置した体組成計や血圧計で週1回チェック。歩数計のデータと合わせてサーバで管理する。
人事のギモンを3社に聞きました!
Q-1 経営陣や社内に、健康経営のメリットや中長期的な費用対効果を伝えるためには?
◆アサヒビール
当社ではある時期、休業などで社員が稼働できていない日数が月間でのべ1400日ありました。これは70人分の就業時間にあたります。この数字をトップに示すとすぐに理解を得られました。情報を響きやすい形で伝えるということは重要でしょう。
◆ローソン
健康経営とは投資です。今、重症化を防止しておけば、将来いきいきとした社員が増え、業績の向上にもつながる。それを信じて取り組むことが必要ですし、実現のために数値目標を定めることも効果があると思います。
◆タニタ
健康経営に取り組むことで、他社から声をかけていただくことも増え、ビジネスチャンスが広がっています。すべての企業にあてはまるわけではありませんが、自社の事業と健康が近しいと、サービスやブランドの影響を感じやすいと思います。
Q-2 管理職を含めた社内の意識改革のために有効な手段は?
◆アサヒビール
健康基本方針のほか、ビデオメッセージなどでも経営層が積極的に発信しています。また、ライン長やマネージャーへの教育は重点的に行っています。細やかな気配り・目配りで、不調者には早期に手を打つ姿勢も大切です。
◆ローソン
ディスインセンティブである意味強制的に進めた部分もありますが、それ以前からトップが重要性を発信してきましたし、労働組合とも調整をしてきました。コーポレートスローガンに「健康」を入れたのも効果的だったと思います。
◆タニタ
週1回の測定は、忘れてもマイナス評価はしませんが、メールでアラートを出したり声をかけるようにしています。また、全社員に配布している「サバイバルカード」に方針やトップの思いを記載しており、毎週唱和することで浸透させています。
Q-3 ストレスチェックの義務化も含め、メンタル不調への有効な対策は?
◆アサヒビール
これまでも独自のストレスチェックを行い、注意が必要な社員には保健師や産業医が面談してきました。また、結果を職場診断としても使っており、各職場の結果をマネージャー同士で共有して気づきのきっかけにしています。
◆ローソン
5年ほど前から独自にストレスチェックを行っています。個人のカウンセリング等はもちろん、総合組織診断にも活用しており、結果を経営層にも報告しています。問題のある部署は人員配置やハードも含めて改善策を検討します。
◆タニタ
長時間勤務など高ストレス状態にあると思われる社員には、睡眠計を貸し出して測定しています。また、プログラムで蓄積したデータや健診結果を人事データと突き合わせるコラボ・ヘルスで、生産性向上の寄与度も見ています。
(2016年1月発行「HR VISION Vol.14」より)
バックナンバー:シリーズ 人を活かす「健康経営」
- 人材こそ資本であり生産性向上のカギとなる <前編>
- 人材こそ資本であり生産性向上のカギとなる <後編>
- 先進企業の「健康経営」実践ポイント<前編>
- 先進企業の「健康経営」実践ポイント<後編>
- 健康経営につながる組織風土づくりの指針「良い会社サーベイ」
- 中小企業の健康経営を支えるヘルスケアソリューション