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INITIATIVE「自分のキャリアは自分で創る」WEBマガジン

ひと 2016.04.12 モデルから農業経営者へ転身 大野農園の「新しい農業」への挑戦

文:INITIATIVE(イニシアチブ)編集部

福島県南部に位置する石川町。その町に、「新しい農業」への挑戦を続ける果樹農家 大野農園はあります。桃、梨、りんごを栽培する大野農園の若きリーダーとして、挑戦を牽引するのは、異業種から転身してまだ5年も経っていない大野栄峰(よしたか)社長です。3月末、大野社長が東京・大手町のパソナグループ本部にご来社されると聞き、早速お話を伺いました。



モデルから農業への転身


――3月はじめ、パソナグループ本部1階のカフェで復興応援の特別メニューとして、大野農園さんの「フルーツティー」を販売しました。私も飲みましたが、とても爽やかな香りで美味しかったです。今後のレギュラーメニュー化も決まったそうで、ありがとうございます!

大野社長:

いえいえ、こちらこそ、ありがとうございます。

――早速ですが、大野社長は元・モデルと聞きました。どうして農業をやろうと思ったのですか?

大野社長:
大学を卒業してから27歳までは、仙台や東京でファッションモデルをやっていました。その後もモデルの講師として、ウォーキングやポージングを教えるなど、農業とは全く無縁の生活を送っていました。

転機となったのは2011年の東日本大震災と福島第一原子力発電所の事故です。

実家の大野農園は原発から65キロほど離れており、放射能も東京都内と変わらない線量です。しかし震災後は、贈答品用に購入してくださったお客様から「箱に『福島』と書かないでほしい」と言われるなど、風評被害は少なくありませんでした。売り上げは3割ほど落ちてしまいました。長年にわたり農場を経営してきた父と母も、そのようなことは初めてだったので、ショックを受けていましたね。

気落ちした父から連絡が来て、そうした状況を聞かされ、「自分に何かできることはないか」と考えた末、2011年末に家業を継ぐ決心をしました。
農家の中には自分たちが苦労してきたからこそ、子供にはそれを継がせたがらない人も多いのですが、両親はとても喜んでくれました。



――全く異業種からの転身なので、ご苦労も多かったのではないでしょうか。

大野社長:
それまでは、家業として経営していたため、収穫期などの忙しい時期だけパートの方を雇っていました。しかし、やはり通年で雇用を増やしていきたいという思いがあり、2012年5月に法人化しました。
当然、父が社長になると思っていたら、いつの間にか押し付けられまして(笑)、私が社長をやることになりました。

当初、私は農業経験も、企業経営の経験もなかったため、とても大変でした。
日中は畑で農作業を教わりながら、それをどうやってビジネス化していくかを考え、夜は経営者として総務や経理などを整備していくという日々でした。全く休みはなかったですね。

品種名ひとつ、用語ひとつからして分からないので、インターネットで調べて独学で学んでいました。

そうした中、農業者の横の繋がりができたのが大きかったです。
元は農家の飲み仲間の繋がりなのですが、福島全域に風評被害が広がる中で、「同じ福島県の農業者としてお互いライバルだと言っていられない。協力し合おう」という意識が芽生えてきました。

技術の出し惜しみをしない仲間たちに出会えて本当に良かったです。品種ごとの育て方や害虫への対応など、仲間が教えてくれた情報やノウハウには大変助けられました。

メンバーには大野農園のような果樹農家だけではなく、野菜やきのこ、畜産など様々な品目を手掛ける仲間がいて、販路そのものも共有していくことになりました。

新たな企画を次々にスタート


――それは素晴らしいですね。そうして生まれたのが大野農園の「スイーツピザ」ですか?

大野社長:
はい、そうした仲間と共に、2012年8月から様々な企画がスタートしました。
その中のひとつが、県内生産者の果物・野菜を使ったビザを提供するキッチンカー「オラゲーノ」です。今や大野農園の顔とも言える存在です。



法人化したひとつの目的は通年で雇用を増やしていきたいという想いからでしたが、そのためには、加工品を手掛けていくほかありません。

農業経営者が最初に手掛けやすい加工品は、ジャムやジュースです。
しかし、ジャムだけでも県内で100種類くらいあり、スーパーマーケットなどでの大量生産・低コスト製品との価格競争の中では、自分が思い描いているこだわりを表現するのが難しいと思いました。そこで、どこだったら勝負できるだろうと考えました。

導き出した応えは、ジャムを「ファッション」や「雑貨」と捉えることでした。
ファッションブランドとコラボして、お洒落な雑貨屋さんに置いてもらうなど工夫をして、販路を開拓してきました。

――たしかに、大野農園の商品はとてもお洒落で、パンフレットなども素敵ですよね。

大野社長:
そうした部分は、20代のときのモデル経験が生きていると思います。相手にどのように見せるのか、どういう印象を残すのかを考え抜く仕事ですから。

農業生産者は見せること・伝えることが苦手な人が多いです。
「安心・安全です」「美味しいです」といくらアピールしても、国内で安全じゃない野菜なんてまずありませんし、美味しいことも大前提で、差別化にはなりにくいのが現状です。
そうした中で、作り手のこだわりやストーリーがないと、お客様に訴えかけていくことができないのです。

農産物を作るだけで終わってしまっている農業者がとても多い印象です。
例えば、当社では牛は育てていませんが、酪農家と協力してヨーグルトを作っています。それは大野農園の“ジャムに合うヨーグルト”として販売しているのです。

モノが溢れて、消費者が選んで買う時代には、色々な“掛け算”を生み出していかないと買ってもらえません。
大野農園ではこれまで、紅茶ブランドとのコラボや、サッカーチームの福島ユナイテッドFCとのコラボなどを通じて、色々な商品を企画してきました。




「新しい農業」の視座を得たパソナの講座


――パソナが福島県から受託して実施した「ふくしま・6次化人材育成事業」の研修プログラムも受講いただいたと聞きました。

大野社長:
2012年の冬、まだ大野農園の経営がスタートしたばかりで右も左も分からなかった頃、人脈欲しさと、今後の経営のヒントになればという思いで、パソナさんが開催した研修講座の「6次化マスターコース」に参加しました。

講座では自分でテーマを決めて論文を書くのですが、その一環で長野県小布施町や三重県伊賀市の「もくもくファーム」に現地視察に行く機会がありました。

例えば、大野農園の課題のひとつは首都圏や最寄り駅からのアクセスの不便さです。しかし、それを行政のせいにしても仕方がありません。
魅力あるところに人は集まります。そうした魅力を如何にして作ったらよいのか。それを小布施町のブランディングの取り組みから研究しました。

また、伊賀市の「もくもくファーム」からは、マイナスをプラスに変えるヒントを学びました。
例えば、私たち農業者にとって「大変な作業」が、お客様にとって「魅力的な体験」となることもあると気づきました。

大野農園では、りんごの収穫が終わった後の農閑期、選定作業で農園に落ちた枝を拾って焚き火をして、「焼きりんご」を作って食べるという体験型イベントをやっています。
農園としては、枝を拾うという「作業」をお客様と共にやりながら、農閑期に売り上げを立てることができるのです。

農業はアイデア次第で、こうした魅力ある取り組みをすることができます。こういう新しい視点を得られたという意味で、パソナさんの講座にはとても感謝しています。

人と人を繋げる農業を目指す


――そう言っていただけて、とても嬉しいです。最後に大野社長の目指す農業、未来の大野農園についてお聞かせください。

大野社長:
意識しているのは、すぐに直販に繋げようとしない、ということです。
まず、焼きりんごなどのイベントや、スイーツピザやジャムなどの加工品をきっかけにして、大野農園を知っていただくようにしています。

「このりんご、美味しいから買ってください」というのは短期的な取り組みですが、“体験”を通して農園のファンになっていただくことで、大野農園のブランドが長期的に発展していくと考えています。

これまで、イベントに参加したことがきっかけで定期的に果物を買ってくださるようになったり、毎年のイベントを楽しみにしてくださるお客様との、たくさんの「繋がり」ができました。
これからも、美味しいだけではなく、「人と人を繋げる農業」をやっていきたいです。



また、次世代の農業者を創っていきたいとも思っています。
大野農園の近所には30軒の農家がいますが、その中で後継者がいるのは2軒だけです。今はいいですが、5年後、10年後、誰がその土地を守っていくのでしょうか。
大野農園は、その受け皿となっていきたいと考えています。

実は大野農園の社員もUターン、Iターンの人がほとんどです。元は農園のお客様だったメンバーもいますし、元ホテルマンがいるなど経歴・経験は様々です。
収入が会社員時代の半分ほどになる人もいますが、「地域活性化のプロデューサーになろう」と呼びかけて、賛同してくれた人に入社してもらっています。

そうやって次世代の農業者を増やしていき、今ある農業の土地・技術・販路を守っていく。将来は“農業のフランチャイズ”のようなことをできたら面白いかもしれません。

――ありがとうございます。こうしてお話を聞いていると、大野農園に遊びに行きたくなってきました!

大野社長:
これからの季節、大野農園は「農園花見」のシーズンです。桃、梨、りんごの果樹の花が咲き乱れる農園で、お花見をしながら地元食材にこだわったバーベキューができるイベントを開催します。

また、夏の時期には「ビアガーデン」もやります。夏の風情を感じながら、果樹園で飲むビールは最高ですよ!
是非、遊びにいらしてください!


●大野農園
福島県石川郡石川赤羽新宿130
http://www.oononouen.com/  

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