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INITIATIVE「自分のキャリアは自分で創る」WEBマガジン

HR 2017.01.27 急速に拡がるHRテクノロジー 人事分野でのビッグデータ活用の可能性

文:INITIATIVE編集部

2016年10月に開催した日本CHO協会人事戦略フォーラムでは、急速に拡がる人事分野でのデータ活用について、本分野の第一人者である慶應義塾大学大学院 経営管理研究科 特任教授 岩本隆氏の基調講演をはじめ、既にHRテクノロジーを導入し始めている3社にご登壇いただき、導入の背景から導入後の課題まで、具体的な取り組みを紹介していただきました。

慶應義塾大学大学院 経営管理研究科 特任教授 岩本隆 氏
東京大学工学部金属工学科卒業。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)工学部材料学科 Ph.D.。日本モトローラ株式会社、日本ルーセント・テクノロジー株式会社、ノキア・ジャパン株式会社、株式会社ドリームインキュベータ(DI)を経て、2012年より慶應義塾大学大学院経営管理研究科(KBS)特任教授。

急成長するHRテクノロジー


人事の分野にテクノロジーを使うという考え方自体は20〜30年前からあり、給与システムやタレントマネジメントなどを考えれば新しい話ではありません。しかしこの数年、コンピューティングの技術やクラウドテクノロジーが一気に進歩し、注目度が高まっています。タレントマネジメントも、人事に関するあらゆるデータを活用できるようになったことで、HCM(Human Capital Management)と呼ばれ始めるようになりました。

また、この分野にはICTベンダーやスタートアップの参入が非常に増えており、それに伴って投資規模も拡大しています。
2015年のデータで、世界に400社弱のスタートアップがあり、投資規模は2461百万ドル(約2500億円)に達しています。人事は非常に領域が広いので、動画活用や機械学習などの機能に特化した企業が400社弱参入できるほどのマーケットがあるということです。

さらに直近では、欧米だけでなくアジアでもHRテクノロジー関連のイベントが急増するなど、大きな盛り上がりを見せています。

日本でも、先進企業が成果を上げ始めている


日本では、2014年ごろからHRテクノロジーに注目が集まり始め、研究所やファンドが立ち上がっています。
私たちは、慶應義塾大学ビジネス・スクールの研究から派生した「HRテクノロジーコンソーシアム」を2015年4月に開始しました。ここでは、9つのワーキンググループによる活動のほか、年に1〜2回「HRテクノロジーカンファレンス」を開催しています。

2016年10月には「HRテクノロジーサミット2016」を開催しました。この場では、さまざまな企業に登壇いただき、19のセッションを行いました。来年にはこの2〜3倍の規模になるのではないかと見込んでいます。

このサミットの中で「第1回HRテクノロジー大賞」が発表されました。日本でHRテクノロジーに取り組んでいる企業はあまり多くないのではと思っていましたが、49社から応募をいただき、そのうちの20社にさまざまな賞が贈られました。

大賞を受賞したのは日本オラクルです。同社では、クラウドテクノロジーを最大限活用して、世界中の社員をインターコネクト(情報・人材をつなぐ)し、採用や育成の分野で大きな成果を上げています。その他、社内のハイパフォーマー人材を分析して採用に活かしたり、ビッグデータ分析技術を活用して職場のメンタルヘルス不調者予防を行うなど、受賞企業ではさまざまなアイデアが実践されています。
「HRテクノロジーの導入は社内であまり評価されていなかったが、受賞によって会社の態度が変わり、全社展開につながった」という声もあり、賞によって会社が動き始めるきっかけにもなっているようです。

加えて、日本では現在、経済産業省が中心となって「第4次産業革命による就業構造変革の姿」が議論されています。その中で、AIやロボット等によって代替され得る仕事の多くは低賃金化していくため、むしろ人間はAIやロボットを活用したビジネスを創造し、“人間にしかできない仕事”を増やしていかなければならないと指摘されています。特にヒューマンインタラクション(人間同士の交流)が求められる仕事を増やし、新たな雇用ニーズを創造しようと政策も動き始めています。




小さなステップから始めて経営の変革へとつなげる


これからの日本におけるHRテクノロジーの活用は、「勘と経験による経営からの脱却」に向けた大きな機会となるでしょう。日本では、過去から積み上げた企業文化や会社の常識によって経営判断を下す企業が多いのですが、テクノロジーを使うとデータによりさまざまなことが見えてきて、論理的な判断が下せるため、活用の可能性は広くて深いと思います。テクノロジーの活用が進むと、人は人にしかできない付加価値の高い仕事に特化し、さらなる価値創造も見込めます。
ここでの大きなポイントは、いかに早くスタートしてデータを蓄積できるかです。早くからデータを集めて活用している企業と、後発の企業との差は時間とともにどんどん広がっていくためです。

最後に、HRテクノロジーによる経営の変革に向けて行うべきことを整理します。
一つ目は「HRテクノロジーの進化を常にウォッチする」ことです。人事とデータ分析の双方を理解できる人は少ないため、HR部門とテクノロジー部門の連携や、HRアナリティクス部門の立ち上げなどが考えられます。

二つ目に「経営の方向性に対して、何からどう手をつけていくべきか、整理する」。人事の領域は広く、すべてを一気にやることは難しいので、経営に対して最も重要なことから着手すべきです。

三つ目に「データを整備する」こと。データを持っている企業は多いのですが、どのデータをどの目的で整備するかが明確でないケースが多いため、そこをきちんと検討する必要があります。

四つ目は「小さくても早めに成果を出していく」ことです。アメリカのイベントに参加すると“journey”という言葉がよく使われます。長い旅だと考えて、小さい成功事例の積み上げで社内に大きな渦を作っていくということです。

HRテクノロジーはハードルが高いと思われがちですが、現在はコンピューターが進化してExcelでもかなりの分析ができますし、近いうちに誰でもAIが使える時代やってくると思っています。食わず嫌いにならず取り組んでみることが、一番重要なことだと思います。

(以上、岩本氏の基調講演)



HRテクノロジーの企業活用事例


日本CHO協会人事戦略フォーラムでは、岩本氏の基調講演に続き、楽天株式会社、NTTコムウェア株式会社、日本アイ・ビー・エム株式会社の3社の担当者にご登壇いただき、各社のHRテクノロジーの活用事例をご紹介いただきました。

楽天:グローバル化を支える人事データベース

楽天では約5年前から積極的にグローバル化に取り組み、買収を中心に海外展開が進んでいます。全社員約1万5千人のうち、36.7%が海外の社員となっています。2011年に英語公用語化が発表されたのも話題になりました。
その際に、グローバル人事制度の導入と人事データのグローバル化に踏み切っています。クラウドで運用しているため、システム要件の整理を短時間で行い、ミニマムの工数で設定することができました。現在は、eラーニング配信や採用システムもグローバル共通で導入を進めています。

課題としては、グローバルでデータのインプットをお願いしても、更新の頻度と質がなかなか保たれないことがあります。システムの機能が向上してもデータが入っていないと使えないため、幅広いデータを地道に入力するオペレーション体制の確立を目指しています。
また、特に海外では退職の際の引き継ぎがなされないことも多いため、ノウハウの定着化に注力しています。

ユーザビリティという観点では、日本のヘッドクォーターが導入したものが使いにくいという声がどうしても海外各社から上がってきてしまうため、利便性やメリットをきちんと強調して説明し、グローバルの方針を貫くことが大切だと考えています。

NTTコムウェア:変化する事業に対応するタレントマネジメント

電気通信のビジネスは2000年半ばから変革の時代を迎え、ビジネスのスピードも上がっています。そこで、コンピテンシーの考え方を導入して、仕事に活きるスキルやモチベーション、行動特性といった総合的な実力を評価したり、短期プロジェクトや新規ビジネスに合わせてアサインができるよう、体制を整えるなどの取り組みを進めてきました。
しかし、人材の定義が現場の実態に合っていなかったり、アサインに工数がかかるなどの課題がありました。

そこで、こうした課題を解決するために、従来の人材マネジメントに追加・改善を行う業務をタレントマネジメントとして定義し、サイクルを定義してHCMクラウドを導入しました。
人事・評価・育成の情報が一括管理できるようになり、現場のマネージャーが他組織の従業員のスキルやコンピテンシーが把握できるようになりました。また、従業員が自発的にスキル等を申告できるようになり、他組織のマネージャーとコミュニケーションを取ることが可能になりました。

人事では今後もデータの活用やマネジメントの融合が進んでいくと思われますが、人という非常に柔らかく複雑なものを扱うものとして、ぜひ温かな「ヒューマンファースト」、人を中心としたマネジメントの確立が進んでいってほしいと考えています。

日本IBM:コグニティブ・コンピューティングを活用した人事業務の高度化

IBMの「Watson」というものを耳にされたことがあると思います。これはコグニティブ・コンピューティング( Cognitive Computing )の総称で、人の意思決定を助けるものと位置づけています。これまでの人事業務は経験・勘・度胸に頼った運用が主でしたが、Watsonを使って経験と勘を精緻化し、エビデンスに基づいて意思決定を高度化できると考えています。

Watsonは自然言語の解析が得意なので、応募者のエントリーシートやソーシャルメディアでの発言を解析して人物像を分析するといったことが可能です。また、旅費・立替清算の不正防止や、人事関連業務への質問メールに自動で返信をするといったことも、IBMではすでに導入されています。

何から始めればいいのか分からないという質問をよくいただきますが、どの会社でも従業員のプロフィールや満足度調査の結果、勤務時間、給与などのデータはお持ちです。
こうしたデータを読み込ませれば、どんな人材が何人いるかが突き止められるようになり、業務に活かせます。数年後には、データ分析の専門人材がいなくてもデータをうまく活用できる世の中が到来すると考えられるため、データの価値を上げるために今から取り組み始めるべきでしょう。

(2017年1月発行「HR VISION Vol.16」より)

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