文:
株式会社パソナ 執行役員 法務部長 村上いずみ
国の進める「働き方改革」の中でも、非正規雇用の処遇の改善は重要なテーマとして位置付けられています。今回は、同一労働同一賃金に関連するガイドライン案の概要や、法改正に向けた動向、今から進めておくべき準備についてお伝えします。
同一労働同一賃金をめぐる議論の現状
平成28(2016)年12月に、国の働き方改革実現会議から「同一労働同一賃金ガイドライン案」が出されました。
同一労働同一賃金と聞くと賃金のみに注目が集まりがちですが、このガイドライン案は、いわゆる正規雇用労働者(無期雇用フルタイム労働者)と非正規雇用労働者(有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者等)の間の不合理な待遇差の解消を目指して策定されています。
ガイドライン案の中では、正規・非正規の間での待遇差が不合理となる場合・ならない場合が、多数の事例を挙げて示されています。
現行の「労働契約法」第20条や「パートタイム労働法」第8条でも労働条件に不合理な格差があってはならないとされていますが、その実効性が担保されているとは言い難い状況でした。
そこで、このガイドライン案を政府主導で発表した後に、法改正に向けた準備が進められており、今回の通常国会に法案が提出され審議が行われる見込みです。
これまで、ガイドライン案が先行して、後追いで法改正の準備が進められた例はほとんどありませんでした。このことからも、政府が働き方改革に力を入れていることが読み取れます。
(参考記事)労働契約法の2018年問題 有期契約社員の無期転換制度の対応ポイント
法改正のポイントとは?
今回の法改正では、パートタイム労働法・労働契約法・労働者派遣法の3法が改正される見込みです。昨年、労働政策審議会に提出された改正法案要領によれば、主な改正ポイントは次の通りです。
まず、『労働者が司法判断を求める際の根拠となる規定の整備』です。
改正案では、「労働契約法」第20条の規定を削除し、「パートタイム労働法」(現行法は「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律」)を「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」に名称変更し、有期雇用労働者も含めるとしています。
また比較対象を、「同一の事業所に雇用される」から「同一の雇用主に雇用される通常の労働者(正規雇用労働者)」に変更し、①職務内容、②職務内容・配置の変更範囲、③その他の事情、の3要素を考慮し、不合理と認められる待遇の相違を禁止するとしています。
現行法でも、この3考慮要素は規定されていますが、待遇差が不合理と認められるか否かの解釈の幅が大きいという問題があることから、「パートタイム労働法」の改正案では、基本給、賞与、その他の待遇(手当・休日等)のそれぞれについて、3考慮要素のうち当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮するという枠組みとするとしています。
一方、「労働者派遣法」の改正案においては、「派遣先の労働者との均等・均衡方式」とされています。しかし、派遣先が変わるごとに賃金水準も変わってしまうと、派遣労働者の賃金水準が不安定になってしまうという課題があります。
そこで、待遇決定の際に「派遣先の労働者との均等・均衡」か「派遣元の労使協定による一定水準を満たす待遇決定方式」の選択制が検討されています。
この他、改正案では、パートタイム労働者に加え有期雇用労働者に対しても、『雇入れ時の待遇の内容等に関する説明義務』、『労働者から求めがあった場合に、待遇を決定するに当たって考慮した事項(前述①〜③)に関する説明義務』が雇用主の義務とされています。
また、『行政による裁判外紛争解決手続の整備』として、「不合理な待遇の相違の禁止」に関する苦情及び紛争についても、行政から助言・指導・勧告の実施や、行政ADR(裁判外紛争解決手続)が利用できる等とされています。
法改正に向けて企業が準備すべきこととは?
冒頭でお伝えしたとおり、現行の「労働契約法」第20条でも「不合理な労働条件の禁止」が規定されており、有期雇用労働者と無期雇用労働者との間の待遇差が不合理であることを理由として労働者側が起こした訴訟例もあります。
すでに判決がでているものもありますので、裁判所の判断を推察して自社の人事制度や人事規定を見直して検討していくことが可能です。
裁判では、有期雇用労働者と比較するべき無期雇用労働者の対象がポイントとなっていますので、いずれの非正規雇用労働者の場合においても、比較対象を正規雇用労働者のうち、どの労働者に求めるのかが大きな課題になるものと考えています。
例えば、有期雇用労働者と無期雇用の社員で比べる場合でも、総合職社員と一般職社員では条件が異なります。会社によっては、転勤のない地域限定社員と比べるのが妥当であるなどもあるでしょう。
会社ごとの人事制度によって比較対象が異なりますので、その結果、待遇差が不合理であるか否かの判断が変わってくると思います。
これらも踏まえ、会社の備えとして求められることとして、次のことが挙げられます。
まずは、自社の就業規則を点検し、手当などの差がどういった理由で生じているのかを検討して、合理的なものになるように順次変えていくことが必要です。
具体的な例としては、「就業規則の比較にあたり、労働者ごとに、どの就業規則が適用されるのかが規定されているか」「働き方や処遇が異なる労働者を同一の就業規則で規定していないか」「就業規則に曖昧な規定がないか」「手当の項目ごとに、手当の有無や、手当の額、率、日数等の差がある場合の理由が合理的であるか」などが挙げられます。
その上で、差がある場合に、一朝一夕にはいかないことであるとは思いますが、どうしてその差があるのかなど、労働者に正々堂々と説明できる制度にしていき、労働者が納得感をもって働けるようにしていくことが必要です。
なお、特に労働組合がある会社においては、労使協議も不可欠であることも付け加えます。
日本では労働人口が減少傾向にある中、多様な働き方を推進する動きが活発になっています。
正規・非正規といった枠組みではなく、働くすべての方が、納得感を持って働き方を決めることができるよう、多様な働き方を認めるとともに、納得感のある人事制度を実現していくというバランス感覚が、今後より一層求められていくと思います。
同一労働同一賃金をめぐる動向
- 2016年6月 「ニッポン1億総活躍プラン」閣議決定
- 2016年9月 政府「働き方改革実現会議」発足
- 2016年12月 働き方改革実現会議「 同一労働同一賃金ガイドライン(案)」提示
- 2017年3月 働き方改革実現会議「 働き方改革実行計画」取りまとめ
- 2017年6月 厚生労働省 労働政策審議会「 同一労働同一賃金に関する法整備について」取りまとめ
- 2018年上半期 労働契約法、パートタイム労働法、労働者派遣法等改正案 通常国会で審議?
- 2019年~2020年? 改正法施行?
(「HR VISION Vol.18」より一部改変)
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