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INITIATIVE「自分のキャリアは自分で創る」WEBマガジン

HR 2016.02.15 シリーズ 人を活かす「健康経営」(1)
人材こそ資本であり生産性向上のカギとなる <前編>

文:東京大学 政策ビジョン研究センター 健康経営研究ユニット 特任教授 尾形裕也

「人材」は企業の成長を支える重要な経営資源です。社員がイキイキと活躍できるよう、健康管理の枠組みを超え、戦略的かつ積極的な健康増進に取り組み、健康を重視する企業文化を育む企業が今、増えつつあります。本連載では、「健康経営」を実践しヘルシーカンパニー(※)を目指すための施策を考えます。
第1回は「人材こそ資本であり生産性向上のカギとなる」と題し、東京大学 政策ビジョン研究センター 健康経営研究ユニット 特任教授 尾形裕也氏に健康経営の概念や社会的背景、昨今の取り組みの全体像について伺いました。
※ヘルシーカンパニーとは…1980年代に米国の経営心理学者ロバート・ローゼン氏により提唱された「健康な従業員こそが収益性の高い会社をつくる」という思想
(参考:http://expo.nikkeibp.co.jp/hcf/what.html )


東京大学 政策ビジョン研究センター
健康経営研究ユニット 特任教授 尾形裕也

東京大学工学部・経済学部卒業。1978年厚生省に入省、在ジュネーヴ国際機関日本政府代表部一等書記官などを務める。2001年より九州大学大学院医学研究院医療経営・管理学講座教授。2013年より九州大学名誉教授。東京大学政策ビジョン研究センター特任教授。

 

「疾病モデル」から「生産性モデル」への転換


「健康経営」という言葉は、元の英語では Health and Productivity Management と言います。つまり、従業員の健康と労働の生産性を同時にマネージしていこうという考え方です。そのように捉えると、健康経営が企業・組織にとって重要な課題であることが明確にわかります。欧米諸国ではこの20年ほどで、病気になったら医療費を払うという伝統的な「疾病モデル」から、医療や健康の問題を単なるコストではなく人的資本への投資だと考える「生産性モデル」へと大きな考え方の転換が起きており、それに伴う様々な先行研究が進んできました。

その一例として、アメリカの商工会議所のパンフレットに掲載されたデータがあります(図)。これはアメリカのある金融機関の従業員を対象に健康関連コストの構造を推計したものですが、衝撃的な結果が表れています。いわゆる医療費は全体の約4分の1に過ぎず、長期・短期の障害や、病欠を表すアブセンティーイズム(Absenteeism)もそれほど大きくありません。ここでの最大のコスト要因は「プレゼンティーイズム(Presenteeism)」です。プレゼンティーイズムとは「出勤はしているものの、何らかの理由によって業務の効率が落ちている状態」のことで、生産性が落ちれば企業にとっては間接的に健康関連のコストが発生することになります。

プレゼンティーイズムにどのような要因が関連しているかというデータも、欧米の研究で蓄積されてきました。例えば、高コレステロールや高ストレス、喫煙、糖尿病等の健康リスク項目に多く当てはまるほど労働生産性の損失割合が上昇し、プレゼンティーイズムではその影響が顕著に大きいことがわかっています。そのほか、メンタルヘルスや偏頭痛などの影響も研究されています。



健康経営の考え方は日本の実状にフィットする


日本では2014年6月に発表されたアベノミクスの「日本再興戦略」の中で、健康経営の普及や、健康経営に取り組む企業を評価するテーマ銘柄の設定検討などが明示的に取り
上げられました。
しかし、日本の企業にとって健康経営は決して新しい考え方ではないと私は考えています。従業員一人ひとりを大切にして長期雇用を保証してきた伝統的な日本型経営は、健康経営の考え方に非常にフィットするものです。データを用いて可視化しエビデンスを示すという欧米流の手法がとられてこなかっただけで、既に多くの日本企業において取り組まれてきたことです。そういう意味で、健康経営は日本型経営を再構築するためのツールとして有効ではないでしょうか。

従来、日本では健保組合や協会けんぽなどの保険者主導で医療費適正化や企業のメンタルヘルス対策などが行われてきましたが、これらは「部分最適」であり、全体として企業・組織の健康関連コストを捉えきれていませんでした。ですから、健康経営は「全体最適」の実現を目指すものと言うことができます。
また、日本は皆保険体制で医療費や健康診断、特定健診や特定保健指導などが統一されたフォーマットでデータ化されています。それらのインフラを活用すれば、今後の大きな発展が望めます。加えて皆保険の体制の下でこうした取り組みを進めていくためには、保険者と母体企業・組織の協働が不可欠なため、「コラボ・ヘルス」にもつながります。さらにこれらの背景として、近年進んだレセプトの電子化も重要です。医療費データを様々な形で分析できるようになったことから、厚生労働省が企業従業員の健康づくりをデータに基づいて進める「データヘルス計画」を推進するに至っています。

【後編に続く】

バックナンバー:シリーズ 人を活かす「健康経営」

  1. 人材こそ資本であり生産性向上のカギとなる <前編>
  2. 人材こそ資本であり生産性向上のカギとなる <後編>
  3. 先進企業の「健康経営」実践ポイント<前編>
  4. 先進企業の「健康経営」実践ポイント<後編>
  5. 健康経営につながる組織風土づくりの指針「良い会社サーベイ」
  6. 中小企業の健康経営を支えるヘルスケアソリューション

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